自分で自分の気持ちがわからない。

どうしたかったんだろう?

私はただ、彼の支えになりたかった。

彼の癒しになりたかった。

なのに。どうして・・・



傷つけることしかできないんだろう・・・










誓い ep.4











「ねぇ、有紀?」

「な、なに?」


あの日から、私はかなり挙動不審極まりなかったと思う。

キッチンからコーヒーのいい香りがする。

彼はキッチンからそれを持ってくるでもなく、ちょっと強引に私をテーブルのいつもの席につかせた。


「何怒ってんの?」

「何が?」


あんなにも楽しみにしていた恭ちゃんの卒業パーティーをすっぽかした。


「何がって。普段おまえあんなことしないだろ?」

「・・・。だって仕事が忙しかったんだもん。」


私が予約したのに。

誰にも何にも言わずに。

ドタキャンでもなく。

すっぽかした。

だから。

今こぉして私は恭ちゃんに珍しくお呼び出しをくらっている。


「それにしたって、今日は仕事が終わりそうにないから行けなくなったって、電話でもメールでも出来ただろう?

何度ケータイに連絡したって電源切れてるし。みんなおまえのこと待ってたんだぞ?」

「ケータイの充電切れちゃってるのに気付かなくて・・・」

「会社の電話から連絡くらいできるだろう?」

「あんな時間になってるなんて気がつかなくて・・・。トラブルがあっていっぱいいっぱいだったんだよ・・・。」


言い訳ばかりの私に、恭ちゃんが大きく息を吐いた。

トラブルがあったのは本当。

時間に気がつかなかったもの本当。

だけど行きたくなかったのも本当なんだ。

本当はみんなの解散時間までには仕事は終わってた。

ただ、行きたくなかった・・・。

恭ちゃんに・・・会いたくなかった。


「じゃぁ・・・なんで先週いっぱい一度も電話にでなかったんだ?」

「そ・・・れは・・・」

「こんなこと今まで一度もなかったから心配しただろう?」

「メ・・・メールは返してたでしょ?ちゃんと謝ったじゃない。」

「俺は、有紀の口から聞きたかった。」

「・・・。」


口を聞いたら、全部見透かされるんじゃないかと思って電話に出るのが怖かった。


「ごめんなさい。」

「それもあるけど俺が言いたいのはそうじゃなくって。」


自分の罪が露呈するのが怖かった。

本当は今日、ここにくるのだって死刑台に立たされる思いだった。

こんな気持ちになるのなら、あの日・・・


「!」


私には、もう返せる言葉が見つからない・・・


「ちょ・・・っ!何泣いてるんだよ!?ごめん、きつく言いすぎた!泣くなよ有紀ぃ・・・」


恭ちゃんは何にも悪くないんだよ。

私が・・・

私が寂しさに負けて・・・

彼を・・・傷つけた・・・






























「関山さん・・・」

「なんか・・・ごめん。君の弱みに付け込んだ形になっちゃったね・・・。」

「そんな・・・っ!謝るのは私の方です!関山さんの気持ちに甘えてしまって・・・」

「いや、俺はわかっててやったわけだから・・・君が謝ることじゃないよ。

最終的に君に選択の余地のない状況で無理やりに選ばせた。だけど、君に責任を問うつもりはないから。」

「違います!これは私が自分の意思で選んだんです。関山さんは私に考える時間をくれました。」

「それは違うよ、本島さん。俺はわかってたんだ。あの時君が俺の方に来てくれるって。

君が彼の事で辛い思いをしていることに気が付いていたから・・・」

「私が、関山さんに惹かれていることにも・・・」

「・・・。」

「私の心の弱さが、あなたを傷つける結果になってしまったんです。」

「わかってたんだ。こうなることも。それでも俺は、君を一瞬でもいいから自分のものにしたかった。それ程君が・・・欲しかったんだ。」

「・・・ごめんなさい。あなたといることが本当は正しいのかもしれない。

関山さんと居た方が私は幸せになれるのかもしれないけど・・・」

「気にしないで。昨夜は何もなかった。これからは、ただの上司と部下に戻ろう。」


私はずるい。

こんなに想われているのに。

それを知っていたのに。

そんな彼の気持ちを利用した。

フッたのは私なのに、

今の彼の言葉に傷ついている。

お友達に戻りましょうなんて虫のいい話・・・

出来るわけもないのに。

そんな風に関係を壊してしまったのは私なのに・・・

一時の感情に流されて、私に一体何が残った?



大事な良き理解者?

愚痴を聞いてくれるお兄さん?

いつも気を遣ってくる優しい上司?

私を想ってくれる都合のいい男?



私には自分に対する嫌悪感と2人の男に対する罪悪感しか残らないじゃない。

だけどあの時確かに私は、彼から底のない安らぎと愛情をもらった。

私の心の足りないピースをそっと埋めてもらった。

あの満ち足りた感情は、嘘なんかじゃない。

関山さんは何もかも知っていてわかっていながら、最後まで私を丁寧に優しく抱いてくれた。

こんな・・・ずるい私を、愛してくれた。

その想いに、一瞬でも答えられたと・・・私は思う。

その代わり、その一瞬私は完全に恭ちゃんを裏切っていた。

それはもう、変えられない事実。

どんなに誤魔化したって、どんなに忘れようとしたってそれは消えてなくなったりはしない。

関山さんはきっと、本当にあの日の事はなかったことにしてくれるだろう。

彼は言葉通り、翌日からも何事もなかったかのように上司として接してくれる。

だけどやっぱりそれは、あの日の前とは違う。

本当に、『ただの上司と部下』

必要以上に声を掛けたり、プライベートな話は一切しない。

だから私も、恭ちゃんと

何もなかったようにはデキナイ。






























「ごめんなさい。恭ちゃん。」

「え?」

「もぅ・・・別れたいの。」




















2年も付き合ってきたけど、彼のこんな顔は初めて見た。

いつも冷静で、柔らかく笑う彼の

こんなにひきつった顔は、どうしようもなく私の、胸に酷く突き刺さった。








skyblueさまへ。

はい、約1年経過致しました。

まだ終わってませんw

でもそろそろ完結です。

初めの意気込みもどこへやら・・・

1年以内完結の約束も全く果たせておりません。(ごめんなさい。

最近無理なんです。

家でじっと出来ないんです。


でもとにかく完結に向けて頑張ります。


本井 由癸嬢のみお持ち帰り可。


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