こんなに後悔した日はなかった。
何もわかってなかったのは私の方で。
自分ばかりが悲劇のヒロインぶってて
本当に自分がどれだけ周りに思われていたか全くわかってなかった。
なんで気付けなかったんだろう。
なんで自分ばかりが傷ついた気でいたんだろう。
本当に、本当に、
私は・・・
バカだ。
誓い ep.6

PM.11:30
まだまだ降り続く雷雨の中、私はただひたすら走り続けた。
冷めた紅茶と、親友を家に残して。
雨が降っていることなんてとっくに知ってたけど、
横殴りの雨が、傘なんか意味ないって知ってたし
玄関で柄までびしょびしょになった傘を一瞥することなく、私は外に飛び出していた。
お気に入りの、私が初めて買ったリクルート以外のスーツ。
買った時は嬉しくて、恭ちゃん家で一日中着てた。
「やっぱスーツ着るとおまえでも大人っぽく見えるもんだな」なんて言うから
妙にくすぐったくって。
大事に着ようって思ってた。
だけど、
そのスーツも防水加工なんて完全に無視で。
ずぶぬれでよれよれだった。
「いったぁ・・・」
ヒールがマンホールの穴に引っかかって折れた。
とっくにはりついていたストッキングは水浸しになり、右膝からはビリビリになって赤い水が滲んだ。
マンホールに流れ込んでいく雨水を見て、私はあの夜の排水溝を思い出した。
膝から滲んだ紅い鮮血は、あの時の紅い胸の刻印・・・
周りのせいにして逃げ出した、あの夜。
「う・・・ぅぅ・・・」
恭ちゃんは知っていた。
あの夜の汚い私を。
恭ちゃんは知ってた。
私が、お祝いをすっぽかした理由を。
電話に出ない理由を。
本当は、感づいていた。
何もかも。
なのに。
彼は私を責めなかった。
昨日、別れを切り出した私を。
知っていたのなら、罵って欲しかった。
あなたを裏切った私を、罵倒して怒って責めてほしかった。
なのに。
なんで。
『そっ・・・か。ごめんな。』
って。
あんな顔、させたかったんじゃない。
悪いのは私なのに。
なんで、
なんで、
恭ちゃんが私に謝るの?
知ってたなら、尚更・・・っ!!!
もう枯れたと思ってた涙が、雨に誘われる。
パンプスのかかとを、両手の指に引っかけて、私は続きを歩いた。
もう、自分が何をしたいのかさえわからない。
だけど、もう一度、彼に会いたかった。
彼と会って話したかった。
許してくれるはずもないけど、
謝らずにはいられなかった。
こんな・・・恥ずかしい自分を。
「稚々里くん、結局いわなかったんだね。」
「・・・?」
「2週間前・・・、私、見たんだ。」
「え・・・?」
「有紀が、・・・ホテルから出てきたトコ。」
「!!!」
「明け方、4時くらい・・・だったかな。」
「あ・・・あの・・・それは・・・」
「関山さんに、見送られてタクシー・・・乗ったでしょ?」
「・・・。」
「何も言わないってことは、やっぱり・・・」
ずっと紅茶を見つめていた朱美が、ちらりと私に視線を向けるのがわかった。
さすがの私も顔があげられなかった。
彼氏以外の男の人と、朝帰りするとこを親友に目撃されていたなんて
後ろめたさと、恥ずかしさと、罪の意識が私の顔を紅潮させる。
言い訳なんて思いつかない。
冷え切った背中から、じんわりと汗がにじむ。
心臓が、異常なほどの速さで鼓動した。
「あ・・・れ・は」
目が廻る。
後頭部をガンガンと殴られるような感覚に陥る。
自分の声が上擦って、先の言葉が出てこない。
「まさかと思ったし、信じたくなかったけど・・・。
あんた、稚々里くんのお祝いすっぽかすし。やっぱり、関山さんとなんかあったのかなって・・・。」
「朱・・・」
声がぶるぶると震える。
耳まで熱くてちぎれそうだ。
どんどんと追いつめられる。
朱美の言葉が、私を攻め立てないのが余計に恐怖を感じた。
「あんな時間にホテルから出てきて、なんにもないわけ・・・ないよね。」
「ごめ・・・朱美・・・私・・・・・・っ」
ガタンッ
突然立ち上がった朱美に、私はビクリとして顔をあげた。その瞬間、バチンッッ!!!
引き裂くような音。
目の前がチカチカする。
正直、私は自分の身に何が起こったのかわからなかった。
髪を振り乱し、大雨の中走ってきたあの時の朱美が、そこに立っていた。
信じられなかった。
あの朱美が手をあげるなんて。
「私に謝ったって、意味ないでしょ!!??
何考えてんのよ!!!!
稚々里くん、有紀の事、最後まで信じてくれてたんだよ!!??
なのにあんたは・・・・・・。」
歯を喰いしばって泣く朱美の姿は、全く知らない女の人だった。
左頬がジンジンして灼けるように痛かった。
稚々里くんが・・・なん・・・だって?
「あの日、あの時、私、、、稚々里くんと居たんだよ。
会社の支社チームとの会合を、毎年やってたレストランのシェフが前日になって突然入院することになっちゃって、お店休業されちゃったの。
それで急きょ、稚々里くんに頼み込んで彼の働いてるお店にお願い出来ることになって。
メニューのこととか、予算のこととか翌日のホント急な話だったから明け方までかかってオーナーと稚々里くんと3人でお店で話し合ってて。
私その会合の責任者だったから、稚々里くんに頼むまでに、予約してた店がダメになった後、
食事もとらずに色んなトコ掛けずり回ってお店探してたからフラフラで。会社まで心配だからって、車で送ってもらったの。」
『ごめん、今日も遅くなる。悪いけど約束した金曜までちょっと会えないかも。仕事中だから、ごめん。またメールしといて。』
そっか。
そういうことだったんだ。
ホント、なんて間の悪い。
「気がつかなければよかった。
あの時私が有紀に気がつかなかったら、稚々里くんがあの場面を見ることなんてなかったのに。」
信号待ちでふと窓ガラスごしに見えた私。
「初めは有紀しか見えなくて。」
『あ、有紀。』
『え?どこ?』
『ほら、あそこ。あれあれ、今あの建物から出てきたっ』
『・・・なんでこんな時間に・・・?』
『うそ・・・、あれって関山・・・さん?』
『・・・。ミッシェルリージェントホテル・・・』
『え・・・』
「あれが、ホテルだってことにも私気づいてなくて。」
もぅ、目の前が真っ暗だった。
恭ちゃんは知ってた。
あの日の私を。
見られてた。
私の過ちを。
裏切りを。
知ってて。
問い詰めなかった。
問いたださなかった。
責めるどころか。
なじるどころか。
私に・・・
あやまったんだ。
どうしてあなたが謝るの?
悪いのは私。全部私。
なのに、どうして。
こんな私を信じてくれたの?
最後まで、あんなに傷ついた顔をして・・・
私の事を・・・
勝手に不安がって、
勝手に寂しくなって、
全部あなたのせいにして、
間違いを犯した私を。
どうして。
『そっ・・・か。ごめんな。
ごめん・・・有紀。泣くなよ・・・。ごめん・・・な。』
『だけど俺は、
おまえが・・・好きだよ。』
そんな私を知ってて。
それでも好きと言ってくれた。
恭ちゃん、
恭ちゃん、
本当は、 本当は、
あなたが好きなの。
大好きなの。
だから耐えられなかった。
あなたの笑顔が消えていくのを。
私があなたを癒してあげられないのを。
仕事の邪魔になってしまうのを。
あなたの・・・1番じゃなくなることを。
好きだから。
恭ちゃんが大好きだから。
私は、私をどうしても許せない。
あなたを傷つける私を、私が許せなくて・・・
別れを告げた。
一瞬でもあなたを裏切り、他の男に抱かれた私を。
許せないの。
たとえ、あなたが私を好きでも。
許されないの。
信じてくれていたのに。
愛してる。
あなたに・・・逢いたい。

skyblueさまへ。
おひさしぶりです。言い訳するのは何度めでしょうか?完結編2です。
毎回この作品を一から読み返して、キャラクターたちを整理して、更に有紀の気持ちになってから書き始めるので
毎回毎回時間がかかり過ぎます。
早く仕上げてしまえばマイナスからのスタートもないのに。
学習しない女です。
とりあえず、この体調でPCに向かい更に沢山の文字を見ても目を回さなくなったことと
集中力が多少続くようになったことを祝して!!
そして、毎年のあなたへの誕生日プレゼントもかねまして。
今年の誕生日には完結することを祈って!!!(無理はせず体調と相談して執筆しますが。笑)
本井 由癸嬢のみお持ち帰り可。
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